Masquerade~マスカレード~

プロローグ

 私立白鳥学園、通称スワンズ。
 地方都市にある人工島に建つ全寮制の高校は、学費・生活費とも生徒には一切の負担が無い。入学を切望する者も多いが、白鳥学園には入試試験というものは行われない。
 入学する方法はただひとつ、学園からの入学許可書だけだった。

 9月――。
 早乙女咲弥の元に、白鳥学園の入学許可書が届いた。
「白鳥学園? 入学許可書って、入れって事? あたし、制服が可愛いところじゃないとイヤなんだけどな~」
 同封されていた資料を見ながら、咲弥はため息をついた。
「お嬢。この制服も可愛らしいじゃありやせんか」
 手紙を運んできた門下生が、咲耶の見る学園案内を覗き込み話しかけた。
「そのお嬢っていうの止めてよ。この制服はレースやフレアが無いのよ。可愛いのが良いの~」
 そう叫ぶと、咲耶は両頬をぷっくり膨らませた。
「学校の制服というのは、こんなもんじゃありやせんか」
「えーっ、そうなの? 制服可愛くないんじゃ、私服の所にしようかな」
 白鳥学園の入学を制服が可愛くないだけで取りやめようとする咲耶に、門下生は苦笑いを浮かべた。再びパンフレットに視線を落とすと、気になる一文を見つけ咲耶に告げる。
「おじょ……咲耶お嬢さん、この学校制服が改造出来るようですぜ」
 咲耶は指された箇所を凝視した。
「本当だ。委員長とかになればいいのね。よっし、なってあげようじゃないの」
 咲耶は仁王立ちで拳を振り上げた。

 2月――。
 白鳥学園、理事会室には理事会役員の面々が顔を揃えていた。
「今日も理事長はお見えにならんのかね」
 上座に近い場所に座る中年の男が笑いながら嫌味を口にする。
「いいではないですか。居ない方が、都合がいい」
 もうひとりの男の言葉に、室内の面々が同意し笑い出す。
 上座の席に座る男が大きく咳払いをすると、室内は静まり返った。
「それでは、経営方針は先ほどお話しした通りでよろしいですかな」
 男の言葉に、部屋にいる全ての人間が頷いた。

 同月――。
「後2か月で入学式だな。今度こそ、求める被験体がいればいいんだが……」
 パソコンのモニターに話しかける男の膝には、三毛猫が大人しく座っている。
『兄さん、無理はしないでください。私は慌てていませんから――』
 兄と呼ばれた男がパソコンの画面に移る人物を指ではじいた。
「これは、お前だけの件ではなくなってきている。大人しく朗報を待っていろ」
『はい。分かりました』
 モニターの中の男は頷くと、通信を切り姿を消した。
「そう……お前だけじゃないんだよ」
 そうつぶやくと、膝でまどろむ三毛猫の頭を優しく撫でる。猫が膝の上で、みーっと鳴いた。

 同月――。
 白鳥学園の迎賓館貴賓室。
 文学の大きな賞を受賞した文化部長の久世撫子の元に、多くの報道陣が押し寄せていた。
「久世先生、この度の受賞おめでとうございます。授賞式には――」
「出ません」
 報道陣の思いもよらないセリフを撫子は口にした。
「えっ?」
 驚きざわめく取材陣を尻目に、撫子は席を立った。
「御用はそれだけですか? わたくしは賞など興味ありませんので、これで失礼します」
「興味ないって……文学界では凄い賞なんですよ。それを……」
 良い縋る記者に、撫子はちらっとだけ視線を移した。
「わたくしにとっては迷惑でしかありません。では――」
 それだけ告げると、撫子は迎賓館を後にした。

 3月卒業式――。
 白鳥学園の卒業式にはひとつの風物詩がある。
 学園を後にしたくない卒業生達が、あちらこちらで泣き叫ぶ姿を見る事が出来るのだ。
「うをぉぉぉーーっ! 俺様は七不思議を解明出来ないまま卒業するのかーー!!」
「俺なんてなぁ、学園祭の時にインフルエンザで保健棟監禁。yuiの生歌聞けなかったんだ。卒業なんてしたくねぇー。yuiーー!」
「卒業なんてしたくありませんわ。もう、あの茶室を使用できなくなるだなんて……国宝級のお道具に触れられないだなんて……私は不幸ですわ」
「学生会のプリンスたちが見れなくなるだなんて……何故、留年する事が許されていないの~」
「研究が、実験が……途中のまま……。後輩諸君、吾輩の後を引き継ぎ、立派に成果を出してくれ」
 阿鼻叫喚。
 毎年の見慣れた光景に、教師・在校生は慣れた様子で学び舎を後にする先輩たちを見送る。卒業生たちは、後悔の言葉を口にすると、引きずられるように校門をくぐって行った。
 その背を見つめながら後輩たちは、「自分たちは後悔しまい」と心に誓うのであった。

 同月――。
 3年に進級する運動部長の小野寺樹は海を眺めていた。
「学校辞めるかな」
 樹の生家は明日の米にも困るほど貧乏だった。借金が無いだけが救いのぎりぎりの生活をしており、学費がかからないからと喜んで白鳥学園に入学したが、仕送りはままならない。今から退学して、就職した方が良いのではないかと思い悩んでいた。
「どこかに100円落ちてないかな――」
 樹は冬休み中、学園内アルバイトに精を出す為、求人板に足を運んだ。

 同月——。
 4月の新学期を前に、ここ白鳥学園学生会執務室は1年で1番忙しくなる。
 白鳥学園は学校の運営方針に『生徒の自主性と自由』を掲げており、学生会は学校運営に関してかなりの権限を与えられている。それ故に仕事量は膨大で、新入生のクラス・寮の仕分け、手配から生徒達からの様々な要望まで片づけなければいけない。
 さぼり魔人と評される学生会会長の久保大地も、この時期だけは机から離れる事が出来ず大人しく仕事に精を出していた。
「恭、新入生からの要望書はこれだけでいいのか?」
 会長専用の机に足を投げ出しながら、忙しそうに書類を仕分けている会長補佐の皇恭人に声を投げかけた。
「それだけだ。たいした内容は無かったから、俺の方で全部処理済だ」
「ほぉー」
 興味なさげに呟くと、書類の束をぱらぱらとめくりはじめた。
「おっ、入学早々デュエル希望の奴がいるぜ。よーしよしよしっ、こいつは面白いぜ。恭、来年度の風紀委員長になる奴に知らせておけよ」
「もう告知は済んでいる」
 大地の言葉に、恭人はメガネのブリッジを指で押し上げ手短に返事を返した。
「仕事早いね~。出来る女房がいるってんのは、旦那留守でも平気って……」
 大地の軽口を、恭人の双子の弟で会計職に就いている皇聖人が遮った。
「会長、もう少し真面目に仕事をしてくださいね。僕の兄さんに迷惑がかからないように――」
「ごめんなさい。仕事続けます……」
 にっこりとほほ笑み静かに言い放つ聖人に、大地は一瞬身を強ばらせ、大人しく書類をめくりはじめた。
「久保、仕事をしてくれるなら、来年度の書記を決めてくれ。学生会役員は、お前の指名でなければ決まらないんだぞ」
「うーん、書記ねぇ。書記先輩の字は好きだったんだよなー。あんな、文字が書ける奴いないんだよな」
 話をしながらも、3人とも目と手は止まる事はない。
「役員が少ない分、お前が仕事をすれば問題は無いがな」
 にやりと笑う恭人に、大地は肩をすくめた。
「それはごめんだな……おっ、これは——」
 1枚の書類を手に取り、恭人と聖人の元に近づいた。
「この文字が良い。この入学書類を書いた子を書記に指名するぜ」
 大地が2人の間に書類を置いた。そこには『鈴代瑠璃』と名が書かれている。
「新入生の女か。ここの激務に耐えられるのか?」
「耐えられなければ、去ってもらえばいいだけです。打診の手紙を出しておきますね。会長署名でよろしいですか?」
「オフコース。たっぷり良い事書いて、ちゃんと釣ってくれな」
「任せてください」
 学生会の激務は、入学式まで続く。
 
 4月――。
 入学式を前に、新任教師と職員が一足先に白鳥学園の門をくぐった。
 その中にひとり、職員宿舎の屋上から校内をねめつける男がいた。
「ここには絶対何か隠されている。それを見つけ出してやる」
 そうつぶやくと、咥えていたタバコを箱に戻し、屋上を後にした。

 同月入学式――。
 新入生を迎え、新しい物語が始まる。

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